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16.最後までギャンブラー
(おさむクリニック新聞2015年夏季号より)

「何で知っとんなら」やせ細った顔の大きな目を、さらに大きくギョロッと見開いて彼は私の顔を凝視して言った。
退院前のカンファレンスで病室に伺った時のことだ。事前に情報を得ていたので「早く退院して来週の児島ボート・チャレンジカップに行きたいんですよね」と私が突然話しかけたものだから驚いたのだ。彼に残された時間はほんのわずかとなっており、翌日彼は退院して我が家に戻った。
彼には一貫した主義主張があり、介護保険の世話にはならないと言い張った。しかし家で数日間過ごしているうちに介護用ベッドが必要な状況となり、訪問診療に伺った時にベッドを借りるために介護保険を申請する事をなんとか同意してもらった。
ところが、介護保険証が見つからず再交付の手続きをとる必要が生じた。再交付された保険証は他人の手に渡らないように郵送のみの扱いであり、直接役所に受け取りに行けないぶん1〜2日の時間的なロスが生じる。介護保険証が手に入ると同時にケアマネが介護保険の申請をし、訪問調査も何しろ早くしてもらうようにお願いしてもらった。
病状を考えると、認定結果が出るまで待っている余裕などあるわけもなく、ケアマネは早速翌日に前倒しでベッドを準備してくれた。レース前日の土曜日、彼はベッドで新聞を読み、すっかりボートに行く気になっていたが、午後になって血を吐いた。それでもボートに行きたい気持ちが強く、何かあったらすぐに受診してもらう約束をして息子さんと一緒に出かける事を許可した。しかし、当日の朝にも喀血があり、券に数字も書くこともできなかったので、本人が新聞をみて決めた番号を親戚が買ってきてくれることになった。
ボート翌日の朝10時に「気が付いたら息をしていない」との電話があり、診療を中断して往診したが、すでに彼は亡くなっていた。当日午後2時に介護保険の訪問調査の予定になっていたが、タッチの差で間に合わなかった。
後日、支払いに来られたご家族からお話を伺った。「最期は気持ちよさそうに眠っていた。安らかな寝顔だった。苦しまずに、最後まで好きな事をして最高だったと思う」「まだこのあたりに居るかもしれない、児島かな」「ボートは本人が“これしかねえ”と言って買った1000円が16000円になった。親戚皆で自分も買っておけばよかったと笑った」
何と、この日の支払いは、本人の儲け分とぴったり同じだった!!彼は最後まで正真正銘ギャンブラーだったのだ。人生はなんて結局ギャンブルの積み重ねかもしれない。
介護保険は、まず介護保険証を持って役所に行って申請をする。それを基に自宅や病院などに市から委託された訪問調査員が伺い、生活状況や体の状態認知症の有無などを見せていただく。その調査の結果と主治医の意見書を参考に介護認定審査会で厳正に審査されて、初めてその方の介護度が決まる。ポイントは要介護度が決まる前でも、訪問調査が行われた日から介護保険は適応されるという点だ。しかし、この方のように調査の前に亡くなられてしまった場合は、ある程度の介護度を予測して前倒しで利用した分のコストは介護保険が使えないため自費になってしまう。この度もケアマネさんはコストの請求が出来ずただ働きとなってしまい、大変申し訳ない事をしてしまった。だからといって、利用する予定もないのに念のために介護保険を申請しておく必要は無い。もし、介護保険が必要になった場合、申し出て下さればこちらですぐにケアマネさんを紹介できる。ケアマネさんはあなたに代わって申請もしてくれるし、色々と力になってくれる。大切なのはオレンジ色の介護保険証を確認しておくことだ。これが無いと何もスタート出来ないからだ。紛失している方は早めに再交付をしてもらっておく事をお勧めする。ケアマネさんにはいつもお世話になりっぱなしだが、ここでケアマネさんの重要性について的確に説明した新聞記事があるので紹介しておく。
《 2010.6.2 山陽新聞「支え上手」−宮原伸二−より抜粋 》
?主治医がいない人は、入院中に病院医師や医療ソーシャルワーカー(SW)に相談して、近所の開業医に主治医になる了解を得ておくことが大事。
?地域の主治医が退院前に病院を訪れ、病気や障害の状況、在宅医療で注意することなどを本人や家族、病院医師、看護師、医療SW、ケアマネ、訪問看護師と打ち合わせることができれば在宅療養は一層スムーズになる。
?在宅で自分らしく生きるという姿を実現するためのポイントはケアマネ。本当に親身になってくれる人から、事務的にケアプランを作成する人までさまざま。誰に依頼するかは結構難題だ。新たに主治医になった医師に紹介してもらうのが無難だろう。
?在宅療養がうまくいくかはケアマネの実力と熱意にかかる部分が大きい。ケアマネの良否を判定する一番のポイントは時間をかけ話を聞き、利用者本人の願いや思いを十分に考慮したケアプランを作成できるかどうか。
?熱心な医師、ケアマネに巡り合えば、在宅で質の高い生活が保障され、その人らしく生きることが可能になるだろう。
院長


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